連載

学力が伸び続ける、本当の基礎とは? その2

「学び舎こいく」滝先生の子育て@糸島

 

「遊ぶことと学力は対立するものではありません。むしろ楽しんで戸外で友達と遊んでいれば、自然に学力がついてくるのです」
とは学習教室「学び舎こいく」を主宰する滝大夢先生の持論。

今、子どもは放っておけば遊ぶというわけではなく、「意識して遊ぶ力を育てる工夫が必要な時代」。
4人の子どものお父さんであるご自身は、自然の中で遊べる環境を目指して、福岡市内から糸島へ引っ越しを選択。

先生ならではの子育ての現場を拝見すべく、ご自宅を訪問すると、日常が遊びにあふれた「やかまし村の子どもたち」のような暮らしがありました。

築140年の古民家に住まう。

田んぼと畑と鶏と

訪れたのは粉雪のちらつく2018年のはじめ。田んぼに囲まれた高台にある築140年の家へ。出迎えてくれたのは家庭菜園の囲いに放し飼いにされた鶏たちと、それからその中でも一番立派な雄鶏をだっこするじゅんくん(年長)としほちゃん(年中)。上に小学生のお兄さんとお姉さん、合わせて4人の子どもたちと、助産師で現在は自宅で母乳育児相談を受けている奥様との6人家族です。

家庭菜園のほかに田んぼを5畝借りて、自然農1年目の収穫を終えたところだといいます。担当はもっぱら奥様の悦子さんと子どもたち。
「草ぼうぼうの中、苗を植えていたら地元のおじさんたちが軽トラを寄せて『ダメばい、耕さな。トラクター貸しちゃーか?』、それを断るのが大変で(笑)。たわわに穂が実ったときには『あんなんでできるとね~』と、皆さん驚いてました」
脱穀は地元の人に協力してもらって、無事に収穫できたと笑います。

小さき農夫たち。 <写真提供>

今は珍しくなったはざかけを実践。 <写真提供>

自宅保育という選択

小学生のお兄さん、お姉さんが学校へ行ったあと、下の二人は家で過ごします。
(ちなみに先ほどの鶏の世話係は、長男のさくくん(小五)。毎朝、5時半起きで餌やりをしてから1時間歩いて小学校へ。産みたての卵を使ってオムレツ、温泉卵などいろいろな卵料理を作るのは世話係の特権。今朝も「卵、食べんでね」と言い置いて学校へ行ったとか)

じっとする雄鶏。かわいがられているのがわかる!?

家の前の坂を降りていくと小さな沢があります。二人と一緒に行ってみると、ぴょんぴょんと石の上を飛んであっという間に沢の向こう岸へ。家の裏の斜面には見上げるように大きな木が。いなくなったと思ったら、根っこの間からひょっこり顔を出したり。跳んだり、駆け上がったり、飛び降りたり。まるで小さな忍者みたい。

木の根っこの間にもぐりこむ?

軽やかな身のこなしは、都会の公園ではあまりお目にかかれないものかも。俊敏と躍動。側を通り過ぎるときはさっと風が吹いたよう。

きっとこうなるまでには落っこちたり滑ったり、転んだりもたくさんしたでしょう。沢の中の石のどれがぐらぐらしないか、石と石の間隔はどのくらいか、向こう岸まで飛ぶにどれだけ勢いが必要か。たくさん失敗しながら、学んでいったに違いありません。

紙と鉛筆があれば。

一方、冬は家の中で過ごす日も多いそう。「折り紙や絵を書いたり。工作系の遊びをよくしています」と滝先生。こいくのブログ(「最強の知育玩具シリーズ⑥」2012年3月12日)によれば、その1でご紹介した「夏篇」に続く「冬篇」のベスト5として、

1位:紙(折り紙・厚紙・段ボール等)
2位:クレヨン(色鉛筆)
3位:はさみ
4位:セロハンテープ
5位:のり

とあったけれどまさにそれを実践中。家の中には今は小学校に通うお兄ちゃん、お姉ちゃんが書いたものに始まって、たくさんの絵が飾られています。

名作「ランドセル人形」。

冷蔵庫横に潜む傑作。

遊びと境目のない暮らし

じゅんくんに、毎日何してるの? と聞いてみると、「寝とう」(寝てる)という答えに思わず笑ってしまいました。
代わりに悦子さんが
「昨日は、空きカンを飯ごう代わりにご飯を炊いていました。最初はランプでやっていたんだけど、燃焼がいまいちだったから焚き火に変えたんだよね。結構上手に炊けていて」
焚き火はお手のものだとか。

お話を聞いていると、子どもたちには遊びと普段の暮らしの区別がないのかな? という印象。田んぼや畑を手伝ったり、料理をするお母さんの気配を感じながら、家の中や外で遊んだり、ぼおっとしたり。

「空き缶ご飯」はこうやって焚き火の中へ……

時間がゆったり流れているのは、テレビがついていないことも大きいかも。
「テレビは制限しています。前の家の頃からほとんど見ないんですが、こっちの家に越してきたらBSしか映らない。自動的に見られなくなって、映画があるときだけ録画して、一ヶ月に一回くらい、家族で鑑賞しています」

デジタルゲームもありません。「長男も高学年になったので、せがまれるのかな、と思っていたのですが、そういうこともなく、今の家の環境で満足しているみたいです」

台所の窓からはよい眺め。小学生組が帰ってくる姿も見える。

「うちはうち」スタイル

「子どもたちにはよく『他の家がどうであれ、よそはよそ、うちはうち』と話しています。そしてなるべく、自分達の考えや、暮らしの中で大切にしていることを伝えるようにしています。でも、自分が子どもだったら、この家すごい楽しいと思いますけどね」
テレビやデジタルゲームより楽しいこと、経験させているつもりだからと先生。お父さんの自負がちらりとのぞいたようです。

里山の冬にはストーブが欠かせない。

滝家ならではのイベントといえば海外旅行。
「長男が3歳のときからアジアへ旅行しています。僕はタイの島が好きで、ほかには、バリ島やマレーシアやラオスに行きました。韓国にはおばあちゃんと行きましたよ」
子連れで観光地は疲れるから、海辺に滞在するのがいつもの過ごし方。「海で遊んでいる子ども達さえケアしておけば、車の心配もないし、あとは上げ膳据え膳で」、悦子さんもたまの休息を楽しんでいるそう。

聞けばお二人は3年かけて世界のあちこちを巡った旅の強者。アジア以外にも中南米、ヨーロッパ、中東、アフリカ。
旅人としての日々は快適で、シンプルな暮らしに違和感がないのもそのせいかも、と顔を見合わせます。

揃って食べるランチタイム。

「うちはうちスタイル、って皆もっと言っていいと思う。周りがどうとか気にせず、もっとそうしたらいいのに。僕たちもそれほどできているとは思わないけれど、自分自身の道や生き方を自分の頭で考えて、定めていこうとする。その姿を見せるのも教育なんじゃないかな」

壮観! 家族6人分の靴がズラリ。

とにかく時間はたっぷりと

自然のほかにもう一つ、子どもに必要だなと思うのは「時間」。「今は皆どこかに所属するのが早いでしょ」、助産師として母乳育児相談に携わり、多くのお母さんたちと話をする機会も多い悦子さん。小学校に入学する前から習い事を始める家庭も多く、その結果、小さな子どもに残される空白の時間が少なくなっているのでは、と思うところがあるようです。

毎日何してるの?「寝とう」笑

二人とも、ひなたぼっこのような、目に見えない時間をどんどん削って「この子に必要なものを」と、習い事をどんどん入れ込む最近の傾向はどうなんだろう、と首をかしげます。
先日もこいくに通う4年生の女の子のお母さんからこんな相談があったとか。
「学校から帰ってくると今だにままごとをしています、と。でも『その時間、意外と貴重かもしれませんよ』と伝えました。学力は伸びているし、元気に学校に通えているのも、ままごとでストレスが軽減されているからかもしれない。その子にとってのままごとにどれだけの意味があるか、周りが勝手に決められないものだから」

じっと林を見る。ただそれだけの時間。

滝家では小学校に通うお兄ちゃん、お姉ちゃんも時々「おつかれ休み」を取ります。体だけでなく、心の方もどことなく疲れているようだ、と感じたら。「自分で決めていいよと言います。抵抗がある親御さんも多いかもしれないけれど」。下の子たちと一日中遊びまわって、すっかり回復して次の日からまた学校へ。
小さな心と体が必要とする休養のリズムが自ずとできている。それもまた時間がたっぷりあるからこそ、できることでもあるのです。

——次は遊ぶ力を盛り上げる「仲間」、お母さんの関わり方について語る最終回へ!

滝 大夢 先生
福岡市内の学習教室「学び舎こいく」主宰。大手進学塾に勤務後、独立。糸山泰造先生が提唱する『絵で解く算数文章題』を主なテキストに、じっくり考える力を育てる個別学習指導を行う。2014年より家族6人で福岡県糸島市在住。
koiku.petit.cc/muscat2b/

その3〜「遊ぶ力」のこれからへつづく

撮影:白木世志一
構成・文:松本あかね
写真提供:滝大夢(学び舎こいく)